コラム

2025.10.21

💫矯正後の安定性を科学する:保定装置の選択基準と臨床応用【JIOS抄読会レポート】


JIOS抄読会レポート

保定装置の選択と効果 〜文献的知見と現場の声を交えて〜

矯正治療後の後戻りを防ぎ治療結果の長期的安定を維持する「保定」は、単なる“治療後管理”ではなく矯正治療の重要な一工程として再評価されています。
2025年6月17日(火)に行われた日本包括的矯正歯科学会(JIOS)抄読会では保定装置に関する最新の文献を基に、複数のドクターによる臨床的意見を共有しました。


文献レビューより:保定装置の現状と課題

以下は抄読会で取り上げた文献内容とその考察の要点です。

🔹 使用傾向と装着指導の概略

  • 上顎には可撤式(VFRまたはHawley)、下顎には固定式(Fix)の併用が一般的
  • 保定初期は1日20時間以上の装着を指導し、半年〜1年後より夜間装着へ移行
  • 保定期間は9か月〜2年が目安とされ、以降は症例に応じ調整

🔹 各装置の特性比較

装置名特徴主な利点注意点
VFR(真空成形)透明・審美性快適・技工所不要劣化・咬合接触減少
Hawleyワイヤー+レジン咬合接触回復・調整可能審美性に劣る
Fix(固定式)前歯裏に接着装着率確保清掃困難・歯石形成リスク

🔹 エビデンスの要点

  • 可撤式と固定式に保定効果の大差なしとの報告あり
  • 固定式は長期安定性に優れる傾向がある一方で、清掃不良が問題となることも
  • VFRは2年以降の破損率が高く、長期使用には向かない可能性も
  • 咬合接触を重視する場合はHawleyが有利との報告も存在

臨床医の声:保定は症例別に再設計されるべき

抄読会に参加した歯科医師の見解から、以下の点が共通の合意事項として浮かび上がりました。

✅ 共通点

  • 最低2年の保定期間を全員が支持
  • 固定式は後戻りリスクが高い症例に優先的に使用
  • 保定は「矯正治療の延長」として患者に明確に説明するべき

⚠️ 相違点

  • リテーナーの種類選定(VFR派/Hawley派)
  • 使用時間指導の厳密さ
  • リコール頻度やフォローアップ体制

臨床応用の示唆:標準化ではなく「症例別設計」を

保定装置の選定において、画一的なプロトコルに頼るのではなく、以下のような個別要因の考慮が不可欠です:

  • 不正咬合の種類と治療内容
  • 補綴計画や咬合力の程度
  • 患者のコンプライアンス・清掃能力・ライフスタイル
  • 舌癖や口腔習癖の有無

保定は治療結果を維持するだけでなく、長期予後を左右する鍵を握っています。
今後もJIOSでは、文献レビューと臨床の知見を融合させた抄読会を通じ、より質の高い矯正医療の実践をサポートしてまいります。


【2026年第1回例会詳細】
テーマ:矯正・補綴について
開催日程:2026年5月31日(日)10:00〜17:00
会場:野村コンファレンスプラザ日本橋5F大ホールB
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【2026年第2回例会詳細】
テーマ:Ortho-Perioについて
開催日程:2026年8月30日(日)10:00〜17:00
会場:野村コンファレンスプラザ日本橋5F大ホールB
アクセスはこちら


【2026年第3回例会詳細】
開催日程:2026年11月29日(日)10:00〜17:00
会場:野村コンファレンスプラザ日本橋5F大ホールB
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