2024年 IOS 第三回例会が2024年9月29日(日)に終了いたしました。
第三回例会は『次世代MFTの可能性/非抜歯矯正とオーストリアン・ナソロジーの真実』とテーマ2本立てにて開催いたしました。

第三回例会のまとめを下記に掲載いたします。
9月29日(日)、野村コンファレンスプラザ日本橋(東京都)にて2024年IOS第3回例会(大会長:榊原毅先生)が「次世代MFTの可能性/非抜歯矯正とオーストリアン・ナソロジーの真実」の2つをテーマに開催された。現地には開業医から大学関係者、企業会員まで41名が参加し、オンデマンド登録は17名、合計58名が参加し盛会となった。今回はドイツより宮川順充先生もzoom参加し、国際色の強い例会となった。
午前中は言語聴覚士の阿部恵美子先生による「言語聴覚士からみたMFT」のご講演。「MFT」と一括りに言っても歯科の分野で行うMFTと言語聴覚士が行うMFTとは一部重なっている部分があるもののアプローチの仕方や目指すゴールが異なる。どちらも対象は小児~成人であるが、歯科では後天的な筋肉の不調和を整えることにより正常な歯列形態に改善・維持させることがゴールである一方、言語聴覚士では舌の筋力増強や舌の緻密性を改善することによりスムーズな発話・構音に改善・維持することをゴールとしている。歯科の分野では不正咬合や発音障害への影響として特に小児期に親御さんから相談を受けることが多い。言語聴覚士へ繋ぐタイミングとして発音障害では、小児の場合年長(6歳)までは発達途上の誤りとして様子を見ても良いが、訓練開始が7歳以降になると訓練効果が悪くなることが報告されているため日々の診療で注意が必要である。歯科のMFTは言語聴覚士には不足しがちな静的視点での訓練法であるため、そこに咀嚼嚥下のみならず発話や呼吸といった言語聴覚士分野の訓練も取り入れることで、口腔の機能全てをカバーできる訓練法が開発されることを今後期待したい。また、現状では各領域の連携が不十分であるため各領域の得意を活かした連携のシステム作りを作ることが今後の課題であると思われる。
次に、フリーランス歯科衛生士である内藤和美先生からは「口腔機能低下予防から包括的歯科治療へのアプローチ」についてのご講演があった。近年、「フレイル」という言葉を日常でもよく聞くようになったが、中でも「オーラルフレイル」とMFTについて今回はデータや日々の診療内容も交えてのご講演内容となった。8020はかなり前から達成されているにも関わらず、平成17年~令和4年にわたる研究では深い歯周ポケットを有する割合は増加傾向となっており、残存歯数はあっても機能している歯の数が少ない可能性が疑われる。また、全身の加齢変化により筋力も低下することから歯が残っていても咬めないということは将来的にオーラルフレイルに繋がるため多角的な歯科的アプローチが必要となる。オーラルフレイルの評価方法として①口腔衛生状態の評価で舌苔付着度が50%以上、②口腔水分計での評価が27未満もしくは刺激時唾液分泌量計測で2g /2分以下で口腔乾燥が疑われる、③感圧フィルム(プレスケール)による咬合力が200N未満もしくはオラモによる計測が375N未満で咬合力低下が認められる、④舌口唇運動機能低下が認められる、⑤舌圧測定器で30kpa未満の低舌圧が認められる、⑥咀嚼能率検査でグルコース溶出量が100mg /dl未満もしくは咀嚼能率スコア法でスコア2以下で咀嚼機能の低下が認められる、⑦EAT-10で合計点数3点以上もしくは聖隷式嚥下質問紙でAの回答が1つ以上で嚥下機能低下が認められる、の7つを臨床に使用しオーラルフレイルの判定を行っている。嚥下機能の強化には開口トレーニングや舌保持嚥下、嚥下おでこ体操等のMFTが有用とのことだ。オーラルフレイルはなかなか自身で気づきにくいこともあることから定期的な歯科メンテナンスの際にオーラルフレイル初期に気づくこと、また適切なアプローチを行うことが重要である。
午後は、スラビチェック元教授の元で長年診療を行っていた宮川順充先生のご講演。「オーストリア咬合学とは何なのか?Slavicek・Sato理論ーその概念の理想と現実ー」についてドイツよりzoomにてご講演いただいた。Slavicek先生と佐藤貞雄先生の出会いから共に咬合理論を構築するまでの流れからⅠ級、Ⅱ級、Ⅲ級の各症例の治療経過に至るまでドイツ時間早朝にも関わらず3時間の多岐にわたる講演となった。オーストリア・ナソロジーでは犬歯誘導を基本としたSequential guidance occlusion(順次離開咬合)を治療の目指すゴールとしている。その理由として、小臼歯以降の後方臼歯が接触すると筋肉活性が上昇し、ブラキシズムが強くなりストレスマネージメントができにくくなるからである。ガイダンスの平均角度は中切歯が53.8°、側切歯が56.1°、犬歯が49.5°、第一小臼歯が27.2°、第二小臼歯が21.4°、第一大臼歯が14.7°、第二大臼歯が10.9°と言われている。犬歯誘導がある場合でも犬歯のガイダンス角度は非常に重要で、緩い傾斜ではICPのコンタクトポイントから円を描くように一周してブラキシズムを行うのに対して、急な傾斜ではICPのコンタクトポイントよりジャンプしてブラキシズムを行うためガイダンスとしての機能を果たさず適切な犬歯誘導であるとは言えない。一方でSato理論のMEAWテクニックではSlavicek理論を元に非抜歯を突き詰め、下顎頭の適応を期待した治療法である。また、咬合平面の傾斜の調節や咬合高径の調節は歯科矯正用アンカースクリューを用いないと難しいことを各症例の治療経過を供覧しながらCommon Sense Mechanicsの力学系と共にご講演された。補綴学や矯正学において様々な咬合論がある中、1950年代からは矯正医が咬合論に加わることで適応性咬合の概念が加わり、今後生態の適応能力やメンタルヘルスを考慮した包括的な咬合論の理解が必要であると思われる。
来年度の例会は2025年3月30日(日)、6月29日(日)、9月28日(日)の全三回を予定している。次回、2025年度第1回例会では、IOS代表の綿引を筆頭にオルソペリオ分野での権威の先生方をお迎えし、熱いディスカッションを予定しています。ぜひ、現地でのご参加をお待ちしております。
例会の様子の一部をご紹介させていただきます。
東京医薬看護専門学校 言語聴覚士科より阿部恵美子先生から「言語聴覚士からみた MFT」
フリーランス歯科衛生士 内藤 和美様から「口腔機能低下予防から包括的歯科治療へのアプローチ」
ランドハウス歯科医院より宮川 順充先生から「巷でときどき耳にするオーストリア咬合学 (Slavicek・Sato 理論)とは 何なのか? ―その概念の理想と実際―」
大変貴重なご講演をいただきました。







ご参加いただいた先生方、誠にありがとうございました。
また、例会開催までに尽力いただいたIOS運営メンバーの皆さんもお疲れ様でした。
今後も皆様方と、歯科医療の発展のために力を尽くせればと考えております。
おかげさまで2024年のIOS例会は全て終了となりました。
2025年の例会は下記を予定しております。
第1回:2025年3月30日(日)
第2回:2025年6月29日(日)
第3回:2025年9月28日(日)
来年も皆様のご参加をお待ちしております。
今後ともIOSを何卒よろしくお願いいたします。