一般的に矯正治療にかかる期間は2~3年で、その間は1ヶ月に1度の通院が必要とされています。
近年、その治療期間を短縮する方法として「加速矯正(スピード矯正)」という方法が注目されております。
そこで我々IOSでは、加速矯正(スピード矯正)に関する現在のエビデンス(医学的根拠)を明らかにするために最新の論文について検討を行いました。

加速矯正(スピード矯正)とは?
加速矯正(スピード矯正)とは、通常の矯正治療よりも治療期間の短縮を図ることを目指した治療方法のことを言います。
加速矯正(スピード矯正)の主な方法は下記の通りです。
1)力系 low force, low friction: セルフライゲーションブラケットの使用 2)外科的療法 a)Wilckodontics、コルチコトミー 歯肉を切開/剥離して骨を露出させ皮質骨に切れ込みを入れる方法 b)Piezoincisions(ピエゾシジョン) 歯肉を剥離せず骨に切り込みを入れる方法 c)Propel(プロペル) 歯肉を切開/剥離せず歯肉と骨に小さな穴を開ける器具を使用 3)薬物療法 4)理学療法 a)歯に振動を与える器具(AcceleDent)を使用 b)LED光を歯肉へ照射する器具(OrthoPulse)を使用 c)970nm程度のdiode laserを歯肉へ照射
中でも簡便に行うことができる方法として、「理学療法」の一つである「歯に振動を与える器具を使用する方法」が特に注目されております。
そこで今回我々は「振動装置」を使用した方法に焦点を当てて調査を行いました。

振動装置とは?
振動装置の中でも代表的なものが「AcceleDent」という装置です。この装置はマウスピースの部分を1日20分噛み、振動を与えます。
他にも「Tooth Masseure」「Vpro5」「Aevo System」などが様々な名称の振動装置があります。
作用機序は?
では、実際に振動装置が歯の移動を早める場合、分子、細胞レベルではどのようなことが起こっているのでしょうか。
振動装置を噛むことで、歯根膜内の骨芽細胞のRANKLの発現を増加し、前駆細胞から破骨細胞への分化が進むことで骨吸収を促進し、歯の移動速度を増加させます1) 2)。
ただし、ある周波数、強度、持続時間の振動は、骨量を増加させることが示されており、これは骨細胞が振動に反応することに起因しますが、歯の移動を加速させるためには初期段階での骨密度の減少が必要であるため、振動による作用は好ましくないという意見もあります。
また、各装置で振動周波数の設定が異なりますが、なぜその設定なのか、具体的根拠は乏しいのが現状です。
振動装置の効果は?
実際に振動装置を使用した論文を調査したところ、現在のエビデンスは下記の通りです3) 4) 5)。
- 歯の移動の加速に振動装置が有効であるという根拠はない
- 歯根吸収に対する影響はない
- ブラケット装置と併用する場合、レベリングや犬歯の遠心移動などの局所的な移動における効果の計測のため、4ヶ月程度の期間しか評価しておらず、総治療期間を評価した研究はない
- アライナーと併用する場合、振動装置を毎日噛みしめることでアライナーのアンフィット(不適合)が防止でき、治療精度の向上につながる可能性がある
まとめ
今回調査した加速矯正(スピード矯正)についての結論として
- 歯の移動を加速させる方法についてのエビデンスはまだ乏しい
- 種々の方法が実際にどのように作用しているのか証明出来ていない
- 痛みに対しての影響についてもエビデンスがあるとは言えない
- 歯根吸収や全身への影響など懸念材料がある
と言えます。
振動装置については不明点が多く、今後もより詳細な研究が必要です。
私たちIOSでは、エビデンスに基づいた正しい知識と正確な情報を皆様にご提供出来るよう、これからも発信を続けていきます。
<参考資料> 1) Accelerated orthodontic tooth movement: Molecular mechanisms American Journal of Orthodontics Dentofacial Orthop 2014; 146:620-32 2) Accelerated orthodontic treatment - what’s the evidence? Australian Dental Journal 2017; 62:(1 Suppl): 63–70 3) The Effects of Low-frequency Vibration on Aligner Treatment Duration: A Clinical Trial Journal of International Society of Preventive and Community Dentistry Volume 12 ¦ Issue 3 ¦ May-June 2022 4) Effectiveness of using a Vibrating Device in Accelerating Orthodontic Tooth Movement: A Systematic Review and Meta‑Analysis Journal of International Society of Preventive and Community Dentistry Volume 9 ¦ Issue 1 ¦ January-February 2019 5) Does low-frequency vibration have an effect on aligner treatment? A single-centre, randomized controlled trial European Journal of Orthodontics 2019, 434-443