開催日:2026年5月17日
開催場所:Teeth alignment The SpecialistJIOS抄読会
東京日本橋AQUA歯科矯正歯科包括CLINIC 研修室
発表:綿引淳一(開発者・発表者 )

今回の抄読会では、Dental Brainが構想する研究と臨床の統合プラットフォームを題材に、臨床で得られる所見と研究エビデンスを一つの基盤上で結びつける取り組みが紹介されました。その中核をなす4つのコア技術と、その上で進む開発中の機能、さらに今後の展望について、技術の中身を中心にお伝えします。

図1:アカデミア(エビデンス・研究)と臨床(診断・治療)を双方向につなぐコアビジョン
臨床とエビデンスをつなぐ構想
今回の取り組みの出発点にあるのは、「アカデミア(エビデンス・研究)と臨床(診断・治療)を双方向につなぐ」という発想です。臨床で蓄積されたデータが研究を加速し、研究で得られたエビデンスが再び日々の診療に還元される。その循環を、ソフトウェアを介して一つの仕組みとして実現しようとしています。目指すのは、単なる診断支援ソフトではありません。今回紹介された構想は、アカデミアで蓄積されたエビデンスを臨床現場で活用し、臨床データを研究へ還元するための基盤として位置づけられていました。
この構想を技術面で下支えするのが、次に挙げる4つのコア技術です。個々の機能はこの共通基盤の上に成り立っており、土台を共有しているからこそ、後述する開発中の機能群へと一貫して展開できる、という構成になっています。
矯正AIを支える4つのコア技術
- ① DIP法(数学的な土台) 歯の動きを、抵抗中心まわりの3つの成分(傾斜・平行移動・圧下/挺出)に分解し、数学的に扱える形式へ変換します。すべての技術が、この共通の土台の上に成り立っています。
- ② Magic Compare(加重相似変換による高精度な重ね合わせ) 重要な解剖学的指標に高い重みづけを行う「加重相似変換」を用いることで、成長期の症例や外科手術後でも、構造的な形状を保ったまま治療前後を比較できる点が特徴です。
- ③ Magic Evidence(エビデンスの統合) セファロ・パノラマ・口腔内写真・CTといった複数の画像から得た所見を、論文データベースと結びつける仕組みです。検索された論文の立場を「支持/条件付き/疑問」に自動で分類し、その症例に関する世界の知見を素早く俯瞰できます。
- ④ Magic Prediction(顔貌の双方向シミュレーション) 治療計画・3Dセットアップ・顔貌予測の3要素が、互いにほぼリアルタイムに連動する仕組みで、「トライアングル・シンク」と呼ばれます。一方の要素を変更すると、残りの要素が自動で再計算され、整合した状態が保たれます。この双方向性により、従来は「歯を動かして顔貌の変化を確認する」一方向だった流れを、理想とする顔貌から必要な歯の移動量を逆算する方向にも扱えるようになります。

図2:治療計画・3Dセットアップ・顔貌予測の3要素が連動する「トライアングル・シンク」
臨床現場へ:現在開発が進む機能
これらのコア技術を、日々の臨床で使える形に落とし込む機能が現在開発中として紹介されました(いずれも今後実装予定の内容です)。
- 前歯主導でのスペース自動計算:必要な移動量を自動で見積もり、推奨値・現在値・差分を提示。
- 多人種・エビデンス連動のカスタムセファロ:人種や年齢に応じて基準値を動的に切り替え。使いたい分析法や論文を加えると自動で取り込む柔軟性。
- 資料の自動クラウド連携:ローカルのDICOM・STL・画像を自動で判定・整理し、患者情報とひも付け。
- CT/STL対応の研究グレード自動計測:CBCTから合成セファロを生成し、臨床研究にそのまま使えるデータ化。
- インプラントガイド・アライナーへの展開:診断結果から治療実行用データをシームレスに生成。
- スマイルデザインの自動生成:笑顔写真から理想的な歯列を逆算し、スマイルデザインを自動で組み立て。

図3:笑顔写真の解析から理想位置を逆算し、スマイルデザインを自動生成
今後の展望
講演では、これらのコア技術と機能群がアカデミアと臨床現場の橋渡しとなり、Dental Brainが目指す構想を実現していく道筋が示されました。診断そのものを置き換えるのではなく、「複数の所見からエビデンスをまとめ、治療の意思決定を支える」という立ち位置が、繰り返し強調された点も印象的でした。臨床と研究をつなぐこの循環を構想で終わらせず、実際に回し続けられるかどうかが、今後の鍵だと語られました。
編集後記
今回の講演を通じて、臨床医の視座を持ちつつ世界の歯科医療水準を底上げせんとする、JIOS代表・綿引先生の壮大なビジョンが鮮明に示されました。特に印象的だったのは、4つのコア技術を共通のプラットフォームに据え、診断から治療計画、さらには研究連携までをシームレスに統合する設計思想です。AIを単なる代替手段ではなく、豊富なエビデンスを背景に臨床医の意思決定を支える「伴走者」として位置づけるその姿勢は、矯正歯科の新たな地平を感じさせるものでした。今後、これらの機能がどのように実装され、臨床研究の現場を革新していくのか、その展開から目が離せません。
── 関連リンク ──
・Dental Brain株式会社:https://www.dentalbrain.co.jp/
・DIP Ceph:https://dipceph.com/
